異端の鳥
The Painted Bird
R15+
チェコ・スロバキア・ウクライナ合作
バーツラフ・マルホウル
ペトル・コラール、ウド・キア、レフ・ディブリク、イトゥカ・ツバンツァロバー
オフィシャルサイト
2019 ALL RIGHTS RESERVED SILVER SCREEN CESKA TELEVIZE EDUARD & MILADA KUCERA DIRECTORY FILMS ROZHLAS A TELEVÍZIA SLOVENSKA CERTICON GROUP INNOGY PUBRES RICHARD KAUCKY

異端の鳥

恐ろしいほど美しいのか、恐ろしいけど美しいのか、恐ろしいのに美しいのか。美しいのに恐ろしいのか。



広大な大地、深い森、川や湖など、自然のシーンは、どこを切り取っても芸術作品になりそうなくらい美しいのに、そこに住む人々たちは戦争という人間の一番愚かな行為のせいで、凄まじいほどに卑劣で残酷。本作品はナチスやソ連軍よりも、一般の人々が異端(ユダヤ人)の少年に対する恐ろしさの方が際立ちます。

最初のシーンから目を背けたくなり、静かに淡々と非情な人たちに卑劣なことをやられ、話が進めば進むほど痛ましくて観ているだけで絶望を味わいます。口数少なかった少年はそのうち全く話さなくなり、最初は感情もそこそろ表していたのが感情をなくしたようになり、純粋だった目の輝きは失われていく。いい人もいるのだけど、いい人だと思っていた人がひどいことしたりするので、観ている私たちも半信半疑になってしまいます。救いはあるのだろうかと途中見るのが嫌になるほどの酷さですが、少年があきらめないからか、一抹の希望を捨てていないからか、観るに耐えないと思った3時間、最後まで観れました。



原題は『The Painted Bird(塗られた鳥)』で、鳥を飼っているおじいさん(レッフとルドミラ)の話でそのエピソードが出てくるのですが、人や鳥など生き物は、自分とは異なるものを異端みなし排除しようとするのは本能なのでしょうか。だとすると、多様性を認めあうことができるというのは、余裕があるからできることなのかもしれません。人が罪を犯したときに、その人が過酷な環境で育ったことが「情状酌量の余地がある」と判断されるのはこういうことか、と後半の少年を見て思いました。罪を犯したことがないということは、罪を犯さなくていい環境で育った、ということでもあるんだな、と。

本作品の恐ろしさは異端を忌み嫌う、または弱者につけこむ普通の人たちの残虐さですが、その恐ろしさを描写している本作の映画という芸術作品としての、ストーリーの見せ方、セリフや音楽や説明を省いて映像だけで伝える表現方法は、究極に芸術性を高め、とても美しいです。それが恐ろしいほどに美しく、美しいのに恐ろしい、という冒頭の表現になったのですが、この作品は一見異なると思われているものが共存する様を強調して描いています。白と黒のモノクロの世界は、美しいけど恐ろしく、同情と欺瞞が蔓延り、狂気と日常が背中合わせです。

この作品、すごい作品で観る価値はあると思います。観た後でかなり重くのしかかってくるものもあるだけに、人に勧めるかどうかと聞かれたら悩みます。ただこの映画を観て、いかに戦争が人生を狂わせ、人を狂わせるのかを目に、心に、焼きつけて、戦争のない平和な状況に感謝し大切できるといいなと思います。今はコロナで不自由な状況ですが、あの少年が経験したことに比べれば、大したことないなと思うことにしましょう。