アイリッシュマン
The Irishman
PG12
アメリカ
監督:マーティン・スコセッシ
俳優名:ロバート・デ・ニーロ、アル・パチーノ、ジョー・ペシ、ハーヴェイ・カイテル、レイ・ロマノ
オフィシャルサイト
Netflix

アイリッシュマン

アイリッシュマン、Netflixで配信されている映画ですが、これは映画館で大きなスクリーン(うちはそんなには大きくないですけど、一般家庭の大画面のテレビより大きいですよね?)で、迫力ある音響で、映画だけに集中して観たい映画じゃないでしょうか。3時間半は通常の映画館の興行が前提ならない尺で、ネット配信だから作れるわけで、そういう意味で元々長い尺の映画を好むスコセッシ監督はやりたいこと盛り込めたんだろうなぁと思うし、スコセッシの映画はやっぱり映画館の大きなスクリーンの迫力で、他に邪魔されず集中して映画館で観て良さが際立つ作品なので、ネット配信が前提で作られたけど、それを映画館で観れるって、とっても贅沢なことだと思います。

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スコセッシ監督は、アメリカ映画界の巨匠。古き良き時代の映画を継承しているクラシックな作品を撮る監督で、日本で言えば黒澤監督のような存在で、(スコセッシ監督が黒澤監督の作品を敬愛していて、全ての作品を観て研究したくらいらしいので、本当は洋画における黒澤監督の存在がスコセッシ監督、というのが本当ですね。余談ですが、黒澤監督の『夢』というオムニバズムの作品のゴッホの夢のゴッホ役はスコセッシ監督です。スコセッシも黒澤も大好きな監督なので、どこまでも語れますが、この辺にしておきます。)

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最近の映画だと『Joker』は、『タクシー・ドライバー』と『キングオブコメディ』(数あるスコセッシ監督とデ・ニーロとの組み合わせの映画の2作品)への愛が溢れているし、それくらいスコセッシ作品は若い監督に与えている影響は計り知れなくて。その『ジョーカー』にはデ・ニーロも出演していて、役者としてのデ・ニーロが他の役者に与えた影響も多大です。ゴッドファーザーでマーロンブロンドの若い時の役を演じるにあたり、当時無名で(ゴッドファーザーの1作目ではオーディションで落ちたけど)マーロン・ブロンドが演じた役になり切るために、ブロンドのしゃがれた声を模範し、シチリアなまりのイタリア語を習得するためにシチリア島に赴き、徹底的に役になりきる。(こういう役になりきり、体型などまで変えることを「デ・ニーロ・アプローチ」というくらいです)『ゴッドファーザー PART II』のコルレオーネ役でアカデミー助演男優賞を受賞しました。そのゴッドファーザーもアメリカ映画史を語るにおいて外せない名作中の名作ですが、アル・パチーノの出世作ですね。

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『ゴッドファーザー』シリーズ他、ジョー・ペシが出演している『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・アメリカ』『グッドフェローズ』『カジノ』、有名なマフィア、アル・カポネを題材とした『アンタッチャブル』、アイリッシュマンではアル・パチーノが演じたジミー・ホッファをダニー・デヴィートが主演、監督した『ホッファ』、バグジーというニックネームのベンジャミン・シーゲルを題材とした『バグジー』など、アメリカ映画の名作にはたくさんのマフィア映画があります。それはアメリカの歴史の裏側でもあるからです。20世紀にアメリカが成長していく過程で、マフィアは様々な形で歴史の裏舞台(時には表舞台)に登場しています。

本作では、デ・ニーロ演じるイタリア人ではないアイルランド系アメリカ人(通称アイリッシュマン)のフランク・シーランを題材とした本『I Heard You Paint Houses』を元に作られています。全米トラック運転手組合の委員長ジミー・ホッファや彼とマフィアの関係などは、アメリカでは(ある程度以上の年齢の人は)誰でも知っていると思います。また、ケネディ大統領は、父親が禁酒法時代に密造酒の生産と販売や金融関係で財をなしたケネディ家の息子で、父親の代にはマフィアとの関わりがあっただけでなく、大統領本人もシナトラなどの交友関係からマフィアとつながっていたとされていたり、ケネディ大統領の暗殺にもマフィアが関わっているという説もあったりします。この辺りのアメリカの歴史を簡単に知っていると、中盤のストーリーがわかりやすいと思います。このケネディやホッファが生きた時代のアメリカは、マフィアが一番活躍した時代なのかもしれません。スコセッシ監督にとって本作品を撮ることは長年の悲願だったそうですが、アメリカのマフィア映画の真髄を極めたと言ってもいい本作品、ぜひ当館にてご鑑賞ください。

本作品には他にもたくさんの魅力があります。『スターウォーズ』のジョージ・ルーカスが設立した特殊効果のスタジオ「ILM」による、ディエイジングのデジタル技術で若返ったデ・ニーロたちです。最初観た時は、こういう技術を使われているのを知らなかったので、どうなっているのかびっくりしてしまいました。音楽はスコセッシ監督作品で常連のロビー・ロバートソンです。いや、もう、本当にかっこいい映画です。すごい役者たちとスコセッシ監督の世界に3時間半も浸れるなんて、映画好きにはたまりません。Netflixで観ていたとしても、ぜひ当館にてご鑑賞ください。